「アフィニティ・フラード(親近感詐欺)」の
メカニズムと対策。
金融リテラシーを超えた
「人間関係リスク」の管理手法
日本執事協会では、富裕層のリスクマネジメントにおいて、金融リテラシー以上に「人間関係の監査」を重要視しています。
近年多発している、保険外交員や銀行員による横領・詐欺事件。
これらは、被害者と加害者の間に強固な信頼関係がある「アフィニティ・フラード(Affinity Fraud)」と呼ばれる類型に属します。
本記事では、朝礼ライブの内容を犯罪心理学および組織論の観点から体系化し、専門職として顧客を守るための具体的なプロトコル(手順)を解説します。
理論定義:
アフィニティ・フラードとは何か
通常の詐欺は「見知らぬ人」から持ちかけられますが、アフィニティ・フラードは「同じコミュニティに属する信頼できる人」から始まります。
宗教団体、ゴルフクラブ、そして「長年の保険担当者」などが典型的な温床となります。
アフィニティ・フラード(Affinity Fraud)
人種、宗教、職業、趣味などの共通項を持つグループ内での
信頼関係(親近感)を悪用して行われる投資詐欺。
被害者は「疑うこと」を「裏切り」と感じ、発覚が遅れる特徴がある。
保険営業担当者は、以下の3つの要素を持っているため、この詐欺の実行犯として最も適したポジションにいます。
1. **情報の非対称性:** 金融商品の複雑さを利用し、嘘を隠しやすい。
2. **資産状況の把握:** 顧客の懐事情(いくらなら出せるか)を正確に知っている。
3. **心理的占有:** 長期間の接触により、顧客の心理的ガードを完全に下げさせている。
犯罪心理学:
なぜ「普通の人」が詐欺師になるのか
クレッシーの「不正のトライアングル」理論によれば、不正は「動機(プレッシャー)」「機会」「正当化」の3つが揃った時に発生します。
① 動機: 完全歩合制による収入の不安定さ、過度なノルマ、借金、生活水準の維持。
② 機会: 顧客が自分を盲信しており、通帳や印鑑を預かることさえできる環境。「会社を通さず個人的に運用してあげる」という密室性。
③ 正当化: 「運用して増やして返せばいい」「一時的に借りるだけだ」「会社の商品よりこっちの方が顧客のためだ」という歪んだ論理。
つまり、彼らは根っからの悪人ではないケースが多いのです。
環境が彼らを怪物に変え、顧客の「盲目的な信頼」が、彼らに犯罪の機会を与えてしまっているのです。
実務プロトコル:
秘書・執事が実行すべき「防衛線」
顧客(主人)は、感情的な信頼関係にあるため、自ら疑うことが困難です。
だからこそ、側近である秘書や執事が、冷静な「ゲートキーパー(門番)」として機能しなければなりません。
以下は、導入すべき具体的な行動基準です。
- 名義確認の徹底: 送金先口座の名義が「保険会社名(法人)」と完全一致しているか確認する。「〇〇事務所」「〇〇代理店代表口座」などは全て不可とする。
- 公的エビデンスの要求: 商品のパンフレットや手書きのメモではなく、金融庁に届け出のある「目論見書」「契約締結前交付書面」の提出を求める。
- プライベート・コミュニケーションの禁止: LINEや個人メールでのやり取りを禁止し、必ずCCに秘書や家族を入れた公式メールで行わせる。密室を作らせない。
- 「本業外」の即時報告: 保険担当者が「暗号資産」「未公開株」「個人融資」の話をし始めたら、即座にイエローカード(要注意人物)として監視対象にする。
まとめ:
「性善説」で人は守れない
「人を信じるな」と教えるのは心苦しいものです。
しかし、プロフェッショナルの役割は、道徳を説くことではなく、クライアントの利益を守り抜くことです。
性善説に基づく信頼は、リスク管理においては無力です。
性悪説に基づく「仕組み」と「確認」があって初めて、健全な信頼関係は維持されます。
「信頼しているから任せる」のではなく、「仕組みで守られているから信頼できる」。
この順序を徹底することこそが、現代の富裕層対応に求められるリテラシーなのです。
監修・執筆:一般社団法人 日本執事協会
執事のコラム
監修・執筆:一般社団法人 日本執事協会


